やっつけ本番

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『貴族降臨』すべてが観客に委ねられる映画(ネタバレ)

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映画『貴族降臨』を観ました。

この映画、本当に凄かった。一体なにが凄かったのかと言うと、「この前の話がああだったし、今回のあらすじ的にもこんな感じで話が進むのかな」とこちらが漠然と予想していたものとは、全くもって違う方向へ四散していったからです。

まず、『貴族降臨』には制作過程においてある重大な問題が存在します。

今作『貴族降臨』は2019年秋に放送された前日譚にあたるドラマ『貴族誕生』よりも前に撮影されており、作中と現実の時系列が異なります。映画やドラマの撮影現場では順撮りする方が珍しいくらいなので、これだけならよくある話です。
問題は、主演の白濱亜嵐さんが映画を撮影している最中、自身の演じているホスト・ドリーの過去が土木会社の若社長・安藤シンタロウだということを丸っきり知らなかった、という点です。そんなことあり得る……?主役級キャラの過去設定を演者が知らされないなんてことが……?
出典Cinema★Cinema No.85(亜嵐さんインタビュー)

『貴族降臨』では、伝説の貴族ことドリーが世帯年収1億円以上の生徒が通う超セレブ校・聖ブリリアント学園の「乗っ取り」を宣言し、庶民を顧みない学園を強引に「改革」しようとする、言わば"ヒール"の役割を担っています。

しかし、ドラマ『貴族誕生』を見れば分かるように、ドリーことシンタロウは会社の資金繰りにあえぐ肉体労働者の庶民として、「この世に暮らす弱者たちを守り、すべての人が笑って暮らせる高貴な世界を作る」という志と、仲間のホスト・信虎が何者かの策略によって瀕死の重傷を負った仇を取るという決意を胸に、土木会社の社長からホストへと転身し、夜の世界へ足を踏み入れたわけです。

そう!貴族シリーズを見てない人でもめちゃくちゃ重要な設定だな〜ってわかるじゃないですか!なのに!それなのに!その設定が!映画撮影時には!なんと!存在していなかった!!

その結果なにが起こるかと言うと、作品全編が観客の脳内補完ありきで進行するんです。
ドリー、王子たちに「どうして学園を乗っ取るんですか!」と聞かれて「(伝説の王子・奏と)キャラがかぶってるから」とか言い出すんですよ。もう学校改革の理念も薄っぺらいわけです。この『貴族降臨』単独で観てたら「なんて小物なキャラなんだ……」って受け取る人もいると思う。

もう、そんなのシンタロウのキャラクターや理念を知っている私からすれば「は???」なわけで。
あれ?ドリーが学園乗っ取ろうとしてるのってなんでだっけ?あっ、そうだノアに庶民を踏みつけにしてるって唆されて…本心はそっちで…てか信虎の話が全然出てこないけど仇討ち覚えてる?そっか信虎と歩夢のサンマルチノ組は後撮りしたドラマのみの登場だったから、その設定ここでは生きてないんだね〜〜ん〜〜!全然OK〜〜じゃな〜〜い!みたいな気持ち。終始。
「ホストチームのドリーへの求心力と結束力がやけに強いのは土木会社で長年一緒に働いてきた同僚だからだよね了解でぇ〜〜す」と観客側が積極的にキャラクターの心情を慮って想像していく、斬新な鑑賞スタイル。

たまに後撮りしたシンタロウとしての場面や回想シーンが差し込まれるんですが、やっぱりキャラクターの乖離とぶつ切り具合が目立ってしまっていて。
映画撮影時にシンタロウの設定すら無かったってことは、全日土木という設定にも特に深い意味はなくて、ホストから一番遠くてギャップのある職業ってことで思いついただけなのかな……とか考えたり。

個人的には、ドラマ『貴族誕生』で映画『ジョーカー』のあからさまなオマージュがあったことで、「はっ!もしかして今回のプリレジェでは"格差"を描こうとしてる?!」ってちょっと期待していたんです。


まあ蓋を開けてみればこれらは私の考えすぎだったわけですが、いやでもこれくらいは考えてもよくない……?王子と貴族がわざわざぶつかる意味とは……?(次作で共闘して真の敵であるノアを倒すんだろうけどさ!それにしてもさ!)

尊人が貴族側に寝返った理由も、前作で真剣に恋をした相手である果音が奏を選んだことで、自分に足りないものが"お金持ち"側にあるんじゃないかと考えた末に……とかなのかなと思ったら、弁当屋経営する同級生のお母さんに惚れたので助けるため……というものだった…そうか…さよか……。
(これはめちゃくちゃ個人的な感情なので作品の出来とは一切関係ないんですが、私の中の尊人解釈が「あんなに熱烈だったのに!!そんなにすぐ次の女!!!しかも同級生の母親!!!」とアラートを鳴らしていました。これは尊人に夢女気質のある私の責任なので誰も悪くないんです……悪くない……)

あと、ここは駄目だなと引っかかった点がいくつかありました。

まず、学園が乗っ取られるきっかけの一つとなる、理事長のスキャンダルについて。正直、あの一連のシーンを観た瞬間思わず席を立ちそうになった。
理事長がたまたま転んだ拍子に男性(学生なのか?服装が定かではない)と親密に密着しているように見える写真と、そのまま連れ込まれたクラブでホストたちに囲まれてはしゃいでいる写真が醜聞のビラとして学園にばら撒かれ、それを見た生徒や保護者たちが「変態理事長」と抗議。「気持ち悪〜い」という台詞が飛び交うシーンがあります。

理事長が未成年の生徒相手に行為を働いた、学園の資金を使ってホストクラブで豪遊していた、ということなら進退問題に発展する非難にも納得がいきます。ですが、言ってみればそこまで非難される謂れもない個人のプライベートを開陳して、作中で「男性と遊んでる理事長って気持ち悪い」と受け取られかねない描き方になっているのは、問題ではと感じました。
元々、理事長のステレオタイプ的な美男子好きのキャラ設定には危うさを感じていたので、今回はその偏見が特に色濃く出てしまっていた。

もう一つは、誠一郎の描かれ方について。

今作では、絶対的な信頼関係で結ばれていた誠一郎が奏の元を離れ、ドリー側に寝返るという大きな展開が待っています。
これは一緒に観賞した友人が特にブチ切れていた案件なんですが、「誠一郎が奏を裏切るわけないだろうが!!!!!!!!!」と今にも爆発せんばかりにめちゃくちゃ怒り狂っていて。うん……私もそう思うよ……落ち着いて……。

「裏切る筈がない」と言うより、その裏切りの原因となるシーンの描かれ方に違和感がありました。
奏に自身のシャツを握りしめて眠っているところを見られ、おまけに奏の写真を待ち受けにしていたことが本人にバレてしまった誠一郎が、奏の元を飛び出す……というのが一連のシーン。
そもそも誠一郎は奏をあからさまに待ち受けにしたりしないし、秘蔵写真は5重ロックくらいかけてスイス銀行あたりに預けてる男だろ……というのは一旦置いておいて、これらのことだけで誠一郎が奏との関係を一切合切捨て去ってドリーの元へ流れたのは、少々腑に落ちないものがありました。

あと、ドリーに助けられた際にお姫様だっこされた誠一郎の「ハッ!」と息を呑む表情は凄まじく美しかったのですが、誠一郎がドリーに心を許したエピソード等、二人の関係性にもう少し時間を割いてほしかったです。(抱き上げられた瞬間に伝わるものがあるのは分かるけどさ)

話を戻して。違和感の正体がハッキリしたのは、誠一郎を演じる塩野瑛久さんが雑誌『Audition blue(2020年4月号)』のインタビューで「このシーンに関して言いたいことがある」と切り出した上で、「あるワンカットのあるなしで物語が大きく変わってくるが、そこがカットされていた。自分は必要だったと思っているが監督や制作陣は"観ている人に委ねたい"という意図。そのワンカットがあるかないかでは、観ている方の解釈もかなり変わってくる(要約)」とお話されているのを見たとき。あっ!と答え合わせをした気持ちになりました。

どんなシーンがカットされたのか明確なことは分かりませんが、もしかするとそれは、誠一郎が奏にハッキリと自身の恋愛感情を告げた(露呈した)シーンだった可能性もあるのかなと。
そしてこれは共に映画を鑑賞した友人の話を聞いて「なるほど」と思ったのですが、さらにそこから(気持ちを伝えてから)その誠一郎の想いに対して、奏が率直な態度──戸惑いや無意識の拒否反応を見せてしまったのではないかと。

もしそんなシーンがあったとすれば、誠一郎が奏の元を離れることになるのも、誠一郎の性格を考えればある程度の納得はいきます。
誠一郎は自身の恋心を殺し続けることはできますが、奏の気持ちを少しでも波立たせる自分のことは決して許せないでしょう。

カットされたシーンに関しては完全に私の想像ですが、どんなシーンだったにせよ俳優側に「完成した映像を観て、"あれ、俺なんでこんな芝居してるんだ"と思った」「これに関して、僕はおこです(笑)」とまで言わせてしまうのは、作品づくりとしてちょっとどうなんだろうな……と思いつつ。
塩野さんの演技は全編通してとても切なく、胸をかきむしられる素晴らしいものだったので、ディレクターズカット版が公開されることを望みます。

そして、もし「観客の意図に委ねたい」という言葉に包んで作品内からカットされたシーンが同性愛の描写なら、なぜ同性愛だけが、関係性をぼかして周囲に目配せをした曖昧なものにされるのか。
今まで誠一郎の奏に対する愛情を"BLっぽさ"として消費してきたのに、ひとたび現実的なものになると言明を避けるのは真摯な態度と言えないのでは、と思いました。(これが杞憂であればすみません)

(※カットされたシーンは、「誠一郎は単に奏を裏切ったのではなく、スパイとしてドリーの元へ行ったのだとわかるシーン(?)」だそうです。これもこれで時系列的に謎じゃね?どのタイミングでドリーたちの存在を知ったんだ?と疑問符が増えるばかりなんですが……。しかしそうなると、誠一郎と奏の場面にあれ以上の掘り下げは元々存在しなかったということになり、それはそれでますます違うんじゃないかと思ったり。誠一郎の感情を、ぼかさず真正面から描いて欲しかった)
WiNK UP (ウインクアップ) 2020年 4月号(カットシーンについてのインタビュー)

よく考えたら、ストーリー補完も誠一郎と奏の場面の意図も制作側から委ねられてしまう観客、責任が重すぎないか?

終盤でヤクザとの乱闘シーンがあるんですが、王子側の参加人数5人のうち過半数の3人がハイロー出演者のため(楓士雄、司、ヤマト)プリレジェ世界の中で異様に重たく鋭い拳が振りかざされ、目をこすればそこには一瞬SWORDの風景が広がる……という現象が発生していました。
あとホストクラブで未成年の高校生が働いていいんですか?!お酒提供してたけど?!

接客はポンコツな光輝が、得意の歌声を披露してクラブで名曲「Ti Amo」を歌い上げるというとてつもなく面白い場面も爆誕しています。プリレジェ世界にEXILEは存在するのでしょうか。それともオリジナルソング扱いなのでしょうか。ふんわりとしたメタ描写に背筋がゾクゾクします。
偉大なる先輩の曲を突然劇中で歌い出す手法はジャニーズ映画『少年たち』でも観ることができるので、事務所映画というジャンルは同じ"業"を背負っているのだなとしみじみ納得しました。

あと私はプリレジェの中で誰担?と聞かれたら即答で「果音ちゃん!」と答えるほどの前作ヒロイン・果音担なので、終盤も終盤、エンドロールでようやく果音の生存が確認できてホッとしました。
果音、なかったことにされてなくてよかった。奏様とはラブラブなご様子で、なんと中国に留学していました。


色々と書いてきましたが、私はプリレジェに関して長々と考察ブログを書くくらいには、プリレジェというコンテンツに惹かれる気持ちもあります。同時に、クソなんでこんな描き方しとんねん!と激烈に憤りもします。
hagornmo1367.hatenablog.com

『貴族降臨』主題歌はかなり良かったです。m-floと向井太一が共作した楽曲なんですが、アーバンでエンドロールに流れる音楽として最高。
open.spotify.com
塩野さんの写真、インタビューが素敵なのでぜひ。

プリレジェ関連のコンテンツで一番のおすすめはアプリゲーム「PRINCE OF LEGEND LOVE ROYAL」です。恋愛シュミレーションゲーム、いわゆる乙女ゲー厶なんですが操作性とシナリオのクオリティが異様に高く、本編ドラマや映画とは全く別軸のストーリーが各キャラごとにたっぷり楽しめるので、乙女ゲー好きな方にめちゃくちゃおすすめです。ほんとにシナリオ面白いんだよ!
prince-royale.jp

あと、最後にこれだけは言わせてください。

信虎の仇討ち忘れたか???!?!!?!?!?!?!?!??!?サンマルチノどこいった!?!?!?!!!!?!歩夢を出せ!!!!!!!!!!!!